梨で有名な船橋と、鉄道博物館で有名な大宮。
遠く離れたふたつの町は、私鉄で結ばれている。
東武アーバンパークラインだ。
東武アーバンパークラインは、千葉県と埼玉県のみで完結する私鉄路線だ。
明治時代に開通した、野田市の醤油を輸送する鉄道が、ルーツとなっている。
正式名称は、東武野田線だ。
東武アーバンパークラインの愛称は、2014年に導入された。
沿線に、都心に向かう路線との乗換駅があること、自然が多いエリアを走ることから、「都会」と「公園」を表す名称となった。
東武アーバンパークラインを走る車両は、新旧混ざっている。
古い車両は、半世紀以上前に製造されたものだ。
主に白地に青いライン、十字窓の車両が多い。
まれに、オレンジと茶色の塗装が施されている車両もある。
新しい車両は、青色と緑色が部分的に塗装されたデザインとなっている。
どんな車両が来るか、予想する楽しみがある。
柏行きの列車が、船橋を出て地上を走っていく。
高架を渡って、また地上に降りる。
車窓を流れていくのは、住宅の他、ビニールハウス、畑、果樹園。
ちょっとした森もある。
名前とは違って、都会にはない緑の癒しを感じられる。
「まもなく、終点・柏です」
アナウンスがあり、駅に到着する。
駅に降り立って、驚いた。
ホームが頭端式で、行き止まりになっていたからだ。
ホームの端から端まで歩き、大宮行きの列車に乗り換えた。
時間によっては、船橋〜大宮を直行する電車もあるが、スイッチバックが必要となる。
なぜ行き止まり構造になっているのか。
これは、船橋〜柏と柏〜大宮が、別の会社によって建設されたことが原因だ。
元は別だった路線を統合した結果が、現在の東武アーバンパークラインといえる。
大宮行きが出発すると、左側に船橋行きの列車が並んだ。
線路が左右逆の方向に伸び、船橋行きが坂を上りながら離れて行く。
列車は、ビニールハウスや畑の中を走っていく。
流山おおたかの森では、高い位置にあるつくばエクスプレスの駅舎を見ることができる。
運河を出ると、橋目前の地点で突然、線路が一本に集約された。
単線の状態で、川を渡る。
沿線は特に変わらず、宅地と農地が混ざった光景が続く。
それなのに、線路は単線だ。
単線区間は、春日部まで続く。
他の区間に比べて利用者が少ないので、複線化が遅れている。
列車は単線の状態で、高架区間へと入っていく。
低い建物が並ぶ中、一際目立つ建造物を見つけた。
キッコーマンの醤油工場だ。
銀色のタンクがいくつも並んでいる。
この路線のルーツとも言える建物だ。
駅は2面4線と、大きめだ。
単線から、タコの足のように線路が分かれ、ホームへと伸びる。
駅を出ると、4本の線路が1本に吸い込まれ、再び単線となる。
列車は、七光台に差し掛かる。
次の川間までが、千葉県だ。
車両基地が近く、線路の一部が繋がっている。
ホームの横には、草原と森が広がる。
ドアが開いた途端、山の中と同じ匂いが漂ってきた。空気がおいしい。
まさかこんな平地で、森林の空気を味わえるとは。
列車は、単線を走っていく。
単線とはいえ、どの駅も列車交換ができる構造になっているため、停車時間はそこまで長くない。
そのため、「日本一忙しい単線区間」の異名を持つ。
立派なトラスの鉄橋も、単線で渡っていく。
大小様々な川を越え、建物が多い地域にやって来た。
春日部に到着する。
まるで別の路線に乗ったかのように、車内が混雑する。
『クレヨンしんちゃん』のテーマ曲が流れてから、列車が発車する。
線路が、久々に複線に変わった。
列車は、宅地と農地を走っていく。
高速道路を潜る時もある。
時折対向車両とすれ違う。
大きなビル群が見えてきて、終点の大宮に到着する。
ホームからは、JRの線路が何本も並行しているのが見える。
これぞ路線名通りの「都会」だ。
東武アーバンパークラインは、不思議な構造と自然が多い沿線が魅力の、私鉄路線だ。
2024年4月乗車