愛知には、変わり種の鉄道がいくつかある。
そのひとつが、「名古屋ガイドウェイバス・ゆとりーとライン」だ。
名古屋駅から、JR中央線で大曽根へ向かう。わずか15分で到着する。
改札を出ると、JRとは別に高架があるのを見つけた。
「ゆとりーとライン」と書いてある。
ゆとりーとラインは、2001年に開業した路線だ。
同じ車両で鉄道区間とバス区間を走る。
鉄道区間は、ガイドレールが敷かれた高架となっている。
バス区間は、一般道だ。
渋滞しがちなエリアを高架にすることで、路線バスよりもスムーズに運行できるメリットがある。
今回は、鉄道区間である大曽根~小幡緑地から、バス区間の最初の停留所・竜泉寺までに乗ってきた。
ゆとりーとライン大曽根駅のホームへ向かう。
エスカレーターで進むと、鉄パイプで形成された改札口が見える。
しかし、駅員はひとりもいない。
壁に貼られた注意書きには、運賃の支払いはバスで行って下さいとあった。
改札のさらに1階上の、ホームに入る。
人が待つ所が車両が入る所を挟む、相対式ホームだ。
車両が入る所と人が待つ所は、車道と歩道ほどの段差しかない。
すぐに車両がやってきた。
車両は、路線バスにしか見えない。
車体では、青色、白色、灰色が、曲線を描く。
発車音はバスそのものだ。
しかしよく見ると、タイヤとは別の小さな車輪が、車両の横に出ているのが分かる。
車輪はガイドレールと接して回転し、車両を前進させる。
中央にあるドアから乗る。
ICカードを機械にかざし、2段の階段を登る。
いつの間にか、車内は乗客で埋まった。
出発の時間になり、ドアが閉まる。
発進すると、バスと同じエンジン音を吹かす。
乗り心地は、道路を走る時と変わらない。
一方で、景色は路線バスと全く異なる。
正面のガラスには、コンクリートで固められた高架と、彼方へ延びるガイドレールが映る。
横の窓を見ると、ビルの並ぶ町並みが右から左へ流れていく。
地上6階相当の高さなので、場所によっては遠くを見渡せる。
すし詰め状態だった車内は、少しずつ空いていく。
大曽根から沿線の自宅へ帰る人々に、重宝されているのが分かる。
大曽根付近では、高いオフィスビルやマンションが多い。
進むにつれて、住宅が多くなっていく。
守山辺りでは、陸上自衛隊の駐屯地も見られる。
川村を過ぎると、車両は上り坂を一気に駆け上がる。
坂は遠くから見ると、巨大な滑り台に見える。
そんな急勾配でもスピードを落とさず、スムーズに登る。
一気に次の駅・白沢渓谷に滑り込む。
緑の多い住宅街が見えてくると、小幡緑地駅に到着する。
大曽根駅から約20分。
鉄道駅としては、ここが最後の駅だ。
駅を発車すると、高架はカーブした下り坂になる。
カーブをいくつか曲がるうちに、だんだん景色は低くなる。
坂の一番下に来ると、レールが途切れ、赤白のバーが進行を妨げる。
その前で、車両は停車した。
「機能変換を行います」
運転士がそう言ってすぐに、小さく「ガコン」と音がする。
ガイドレールに挟まれていた車輪が、車体に収納される音だ。
わずか数十秒で、鉄道からバスに変身を遂げた。
バーは上がり、車両が発進し、一般道へ向かう。
乗用車や路線バスに混ざり、走っていく。
バスになって最初の停留所・竜泉寺口に停車する。
運転席横の機械にICカードをかざし、下車した。
先ほどまでの駅ではなく、停留所だ。
乗る時は鉄道だったのに、降りるときはバス。不思議な感覚に陥った。
ゆとりーとラインは、鉄道とバスの両方の機能を持ち、どちらの特徴も味わえる路線だ。
2022年7月乗車