大阪の中心といえば、難波である。
南海本線の起点・なんば駅は、大きなターミナル駅だ。
空港へ向かう特急・ラピートが、目を惹く。
なんばから急行で南下すること、約30分。
大阪南部の、貝塚にやってきた。
貝塚市には、厄除けで有名な水間寺がある。
貝塚から水間寺まで、参拝客のために作られた路線が、水間鉄道だ。
全10駅で、所要時間は約15分。
車両は、かつて東急電鉄だったものを再利用している。
全て2両編成だ。
銀色のボディに、カラフルな帯が貼られている。
帯には何色かパターンがある。
オレンジ色と黄色の、果実を思わせるもの。
赤色と白色の、東急東横線の名残を感じさせるもの。
コーポレートカラーの、緑色、水色、青色を前面に付け、側面は帯がないもの。
わずかな違いながら、どれも印象が異なる。
貝塚駅では、南海本線と水間鉄道のホームが、横に並んでいる。
都会的な大手私鉄のホームから、こぢんまりしたローカル私鉄のホームを見ることができる。
改札の機械にICカードをかざし、水間鉄道のホームに入った。
水間鉄道ホームには、こんなアートがある。
「十二支に夢を乗せて!」と書かれた、色鮮やかな書画が並ぶ。生け垣の上にズラリと並び、迫力満点だ。
プロの書家による、水間観音をイメージした作品だ。
水間鉄道は、運転士のみが乗務する、ワンマン運転だ。
貝塚を出発すると、線路はすぐ単線にまとまった。
長く続くカーブを、ゆっくりと走っていく。
ようやく線路が直線になり、速度が上がる。
それでも、時速60キロを越えることはない。
民家に挟まれた線路を走り、貝塚市役所前に到着する。
ここの付近には、市役所がある他、イベント会場「貝塚市民文化会館(コスモスシアター)」もある。
発車して、真っ直ぐな線路を進み、近義の里(こぎのさと)に着く。
古代、この辺りを支配していた豪族が「近義氏」だったことが、由来となっている。
次の駅・石才までの間で、高架がオーバークロスする。
JR阪和線の高架だ。
なんばから乗ってきた南海本線と、平行して走る路線だ。
水間鉄道から見ると、高架を行く阪和線の速さに驚く。
列車は、石才、清児(せちご)で乗降を繰り返し、進んでいく。
名越(なごせ)の駅の直前で、線路が分岐した。
反対側のホームには、貝塚へ向かう列車が停まっている。
この駅は、水間鉄道でひとつしかない、列車のすれ違いができる駅だ。
待っていた列車には、赤色と白色の帯が巻かれている。
ローカル線で東急東横線が走っているように見えて、不思議な感覚だ。
列車は、森、三ツ松と、進んでいく。
直線的な区間が多いが、時折カーブする。
また、わずかながら登り勾配になっているのが分かる。
終点の1つ前、三ヶ山口(みかやまぐち)。
ホームから、畑とビニールハウスを見ることができる。その一方、高速道路の高架が、畑の脇を通る。
のんびりしていながら無骨な雰囲気もある、独特な駅といえる。
高速道路を潜ると、車両基地が見えてきた。
いよいよ終点・水間観音だ。
車道が駅の近くにあるが、あまり車の音は聞こえない。
閑静な町であることが分かる。
ホームの一部の天井からは、苔玉と蛍光色の提灯がぶら下がり、風で揺れる。
お祭りのような光景だ。
ホームの一角に、待合室がある。
『アワーホーム』という、水間鉄道を舞台にしたドラマ(Youtubeドラマ)の、写真が飾られている。
私が水間鉄道に乗りに来たのは、このドラマの影響だ。
ドラマのシーンの写真と、今回見てきた風景を照らし合わせ、笑みがこぼれた。
ICカードを読み取らせて、駅を出た。
駅舎は、お寺をイメージしたデザインだ。
淡いピンクの屋根と壁に白い九輪が、愛らしい。
水間寺までは、歩いて約10分ほどでたどり着く。
向かう途中の住宅街の道は静かで、畑のいい匂いが漂う。
水間寺は、繊細な木の装飾が施された三重の塔と、どっしりとした本堂が特徴のお寺だ。
水間鉄道は、大手私鉄駅とお寺を結ぶ、ゆったりした路線だ。
2022年12月乗車