高校生時代にJR身延線を知った時、私は妄想を膨らませた。
「身延線は、富士と甲府を結ぶ鉄道なんだ。ってことは、東海道線で東京から富士まで行って、身延線を乗り通して、中央線で甲府から東京まで行けるってこと?乗ってみたい!」
それから15年後、妄想の実現を決めた。
ルートは以下だ。
東京から東海道新幹線で三島→JR東海道本線で富士→JR身延線の各停で富士宮→特急ワイドビューふじかわで甲府→JR中央本線と中央線快速で東京
富士山の南側、西側、北側を通る。
せっかくなので、富士宮と甲府では観光も取り入れた。
また、ゆとりを持たせるため、甲府で1泊した。
JR身延線は、静岡県の富士と山梨県の甲府を南北に結ぶ鉄道だ。
私鉄・富士身延鉄道をルーツとする。
全39駅からなる。
富士〜富士宮のみ複線で、富士宮以北は単線となる。
各停に使われている車両は、313系。
オレンジの帯が特徴の車両だ。
東海道本線や中央線などの車両と共通する。
特急ワイドビューふじかわに使われている車両は、373系。
こちらもオレンジの帯が使われている。
加速時に発する音(インバータ音)には歌心があり、音鉄に人気がある。
東京から三島まで、新幹線・こだまで向かう。
三島からは東海道本線に乗り換え、西へと向かう。
富士山の麓に工場が並ぶ景色が見えると、富士に到着した。
富士からは、各停・甲府行きに乗る。
2両の列車は、住宅の多い郊外を走っていく。
平地だけでなく、山の斜面にも家がびっしりと建っている。
工場の横を抜け、ビルの多い賑やかな駅が見えてきた。
富士宮だ。
市街地は、隣の西富士宮まで続く。
富士宮駅の近くには、商店街がある。
富士宮焼きそばののぼりを掲げた店が点在する。
古い商店がある一方、新しいカフェなども見られ、栄えているのが分かる。
商店街付近には、大きな神社・富士山本宮浅間大社がある。
神社の端に、湧玉池という池がある。
湧玉池の水は富士山の雪解け水であり、透明度が高い。
池を起点とする川は、流れが豊かだ。
美味しい焼きそばを食べ、雪解け水に癒されてから、駅へ向かった。
富士宮からは、特急ワイドビューふじかわに乗る。
3両の列車の2両目に乗り、窓際にカメラを向ける。
西富士宮を出ると、徐々に住宅が減っていく。
ヘアピンカーブを描き、車両が「ゴゴゴゴ……」とうなる。
気が付くと、左手に富士川が併走する、山々に囲まれた地域に入っていた。
カーブは無数にあり、その度に「ゴゴゴゴ……」と轟音が響く。
小刻みにトンネルがあり、川・山の絶景と暗闇が繰り返される。
住宅はほとんどなく、人の気配が感じられない。
川は曲線を描き、線路に近寄ったり遠ざかったりする。
対岸が小さく見える所が多く、川の広さを感じる。
富士宮以来の停車駅・内船に停車する。
「まちの休憩所・よってけっし」(甲州弁で「寄って行きなさい」の意味)を見て、山梨に入ったと気付いた。
列車は、山の間を抜けていく。
併走する川が離れていき、急に道が見えてきた。
瓦屋根の、趣がある建物が並ぶ。
身延駅に停車する。
観光地らしい駅を去ると、再び自然が多い地域に入った。
高い高速道路を潜り、くねくねした細い川を渡る。
その名の通り旅館が点在する、下部温泉に停まる。
山をトンネルで抜け、谷を走っていく。
見渡す限り緑色しかないエリアもある。
「ハンコの町六郷」の看板が目立つ甲斐岩間に、停まる。
列車は、鰍沢口に差し掛かる。
行く手に平地が広がっているのが見える。
甲府盆地に入ったと分かった。
山々は遠くにあるのみで、開けた土地なのが分かる。
畑が遠くまで広がっている。
家の数が少しずつ増えていく。
琉球チックな駅舎が派手な、市川大門に停車する。
畑の種類は様々だ。
野菜らしき畑もあれば、棚に草が絡まるぶどうの畑、背の高い草が風で波打つとうもろこし畑もある。
瓦屋根と白い壁が特徴の、東花輪駅に停まる。
畑に混じって、大きめの建物が増えてきた。
住宅の密集度が高くなり、町と呼べる雰囲気に変わっていく。
南甲府に停車する。
大きくカーブして、中央本線に合流する。
大音量で「ワイドビューチャイム」という音楽が流れる。
終点・甲府のサインだ。
甲府駅は、ホームに入る際、左右に城壁を見ることができる。
武田信玄が城主だった、甲府城(舞鶴城)だ。
城跡は舞鶴城公園という、公園になっている。
本丸に相当する場所まで登ると、甲府の町を一望できる。
甲府市で一番の観光地は、昇仙峡だ。
自然が作り上げた独特の形状の岩山と、壮大な滝・仙娥滝が見どころだ。
ロープウェイで山の頂上まで登ると、岩山だけでなく富士山も見ることができた。
また、仙娥滝は高さ30mもある太い滝であり、迫力満点だ。
滝から続く荒川は、川というより小さな滝の連なりだ。
山に圧倒され、水辺をじっくり眺め、甲府に戻った。
甲府からは、中央本線の各停・高尾行きに乗った。
真っ平な甲府盆地を走り、ブドウ畑が急斜面に並ぶ山の中を走る。
県境の長いトンネルを抜け、高尾に着く。
高尾からは、中央特快・東京行きに乗った。
住宅がメインの多摩地区から、コンクリートジャングルの23区へと走っていく。
新宿のビル群を見ると、甲府にいたのが夢のように思えてくる。
スタート地点の東京駅に到着した。
今回は、JR身延線の大自然の景色に魅了された。
また、富士宮や甲府を巡り、その土地土地を味わうことができた。
何より、壮大な大回りの妄想を実現できて感無量だ。
2023年5月乗車