兵庫県の西宮市は、お洒落な上に大阪へのアクセスがいい。
西宮北口駅直結の『阪急西宮ガーデンズ』は、1日過ごせる規模のショッピングモールだ。
SUUMOの「住みたい自治体ランキング関西版」で1位になるのも、頷ける。
そんな西宮北口には、同じ名前でありながら、終点に直通していない不思議な路線・阪急今津線がある。
阪急今津線は、宝塚から西宮北口を経て、今津までを結ぶ路線だ。
1921年に宝塚~西宮北口(西宝線)が開通し、1926年に西宮北口〜今津が開通した。
宝塚〜今津は直通し、阪急神戸線と平面交差する構造だった。
しかし時代とともに、平面交差が運行の障害となっていく。そこで1984年、今津線は西宮北口を境に南北に分断された。
駅の位置関係(高低差)により、直通はできなかった。
今回は、今津南線(西宮北口〜今津)に乗ってから、西宮北口に戻り、今津北線(西宮北口〜宝塚)に乗った。
阪急の車両は、古いものから新しいものまで、全てマルーンで統一されている。
今津南線で使用されている車両は6000系といい、前面に同じ大きさの窓が3枚ある。
今津北線で使用されている車両は5000系といい、前面の貫通扉の窓がやや長くなっている。
大きく違うのは、車両の数だ。
今津南線は3両しかないのに対し、今津北線は6両もある。
しかも、今津南線はそこまで混雑していなかったのに、今津北線は混雑していて両数を選ばなければならなかった(どちらも土曜の午前中に乗った)。
今津南線(西宮北口〜今津)のホームは、他の路線と離れた場所にある。
列車は、『阪急西宮ガーデンズ』を左手に見ながら、高架を走っていく。
すぐに、駅の隣に広大な土地が広がる、阪神国道に停まる。
駅を出ると、車がひっきりなしに行き交う国道2号線をオーバークロスし、終点・今津に着く。
今津からは、阪神本線に乗り換えられる。
建物を比べると、阪神本線の駅舎の方が大きい。
駅の周りには、小規模な駅ビルが建ち、飲食店が点在する。
生活感のある私鉄沿線、といった雰囲気だ。
西宮北口まで折り返し、今津北線(西宮北口~宝塚)のホームに移動する。
ホームの近くには、そば屋やカフェがある。
多くの人が乗降する路線なのが分かる。
今津南線が高架だったのに対し、こちらは地上に線路が伸びている。
市街地の門戸厄神と甲東園を過ぎると、列車は上り坂にさしかかる。カーブもあるので、走行が大変そうだ。
登って、阪神競馬場の最寄り駅・仁川(にがわ)に到着する。乗客の多くはここが目当てだったようだ。
駅を発車すると、干上がった池(弁天池)にカモが集まっているのが見える。
上り坂はまだ続く。
前面の車窓を見て、驚いた。
山の斜面に、住宅がびっしりと建っていたからだ。
こんなに多くの家が斜面に並ぶ光景は、首都圏にはほとんどない。
列車は、小林(おばやし)、逆瀬川(さかせがわ)、宝塚南口と進んでいく。
その間、線路はほぼずっと登り勾配だ。
今津南線では湧かなかった、「どこへ連れて行かれるのだろう」という感情が湧いてきた。
駅を出ると、大きな川が見えてきた。
武庫川(むこがわ)といい、穏やかながら水が豊かだ。
川の上流には、連なった山々が見える。
川の対岸に来ると、町並みが一変した。
オレンジ色の屋根の洋館が線路の左右にそびえている。
左手の洋館は宝塚大劇場、右手の洋館は宝塚音楽学校だ。
西洋瓦の大きな駅舎が見えてくる。
終点・宝塚に到着した。
駅を出ると、阪急の駅舎の堂々とした佇まいに驚く。茶系の煉瓦の壁とアーチの窓が、クラシカルだ。
JRの宝塚駅も負けじと、古きよき色合いとデザインの駅舎だ。
宝塚は、川や山々に囲まれているので、リゾート地らしさがある。
しかし、高層のビルやマンションも多く立ち並び、都会的でもある。
珍しい雰囲気の街といえる。「こんな街があるんだ……」と、感慨に浸った。
阪急今津線は、生活感のある今津南線と都会的なリゾート地の今津北線に分断された、趣のある路線だ。
2023年3月乗車